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お口の中の細菌
口は体の中でも特に細菌が多いところです。どのくらい多いのか。
歯垢(歯についた白いネバネバ)1mg(1ミリグラム=1グラムの1000分の1)の中に10億個の細菌がいるといわれています。
ちなみに糞便中には1〜10億個。なんと歯垢中の細菌数は糞便と同じかむしろ多いぐらい。
すでに約250年前、オランダ人レーウェンフックは歯垢中の細菌が泳ぎ回る姿を観察し、とても驚いています。
レーウェンフックが手製の顕微鏡で、動きまわる小さな生き物の姿をとらえた時から細菌学の歴史は始まる(岩波文庫 微生物の狩人ポール・ド・クライフ著 秋元寿恵夫訳より)。
細菌学の研究は歯垢中の菌の観察から始まったといえるかもしれません。
とにかく菌が多くて観察しやすかったのでしょう。
多すぎるのでレーウェンフックも歯垢を水で希釈して観察しています。
現在では細菌が「むし歯」や「歯周病」の原因であることが広く知られるようになりました。
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【動画】口の中の微生物(細菌)
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むし歯菌の話
口の中の細菌の動画をホームページに載せたところ、
患者さんから「どれが、むしば菌ですか?」ときかれました。
動画の中から「これです。」と言えればよいのですが。
無理なので、むし歯菌(ストレプトコッカス・ミュータンス菌)の
別の顕微鏡写真をつけておきます。
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むし歯菌(ミュータンス菌)
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昔から、砂糖を食べるとむし歯になることが経験的に知られていました。
イングランド(イギリス)の女王エリザベス1世(ユリウス暦1533年〜1603年16世紀後半の人)はむし歯が多くて歯が真っ黒だったそうです。女王様がむし歯の痛みでしばしば苦しんだことが記録に残っています。原因は砂糖の取りすぎでした。
当時、砂糖はとても高価だったので、庶民にむし歯は少なかったと思います。
その後、イギリスはカリブ海の島々周辺にサトウキビ畑を作り、アフリカの人々(奴隷)を働かせて、砂糖を大量に作りました。それとともに砂糖の値段が下がり、普及すると庶民もむし歯で苦しむようになったのです。
(砂糖の世界史 (岩波ジュニア新書)著者:川北 稔 を参考。)
1960年代になってアメリカのカイスとフィッツジェラルドらがむし歯にかかったハムスターから分離したある細菌の一種を他のハムスターの口の中にうえつけるとむし歯が発生することに気づきました。この菌がストレプトコッカス・ミュータンス菌(以下ミュータンス菌)だったのです。
それではストレプトコッカス・ミュータンス菌を食べたらむし歯になるのでしょうか?
それだけではむし歯にはなりません。
カイスとフィッツジェラルドらの実験では実験動物にスクロース(砂糖)を数十パーセント含むエサを与えなければむし歯は発生しませんでした。
ちなみにコーラ・350mlには39グラム、カステラ100グラムには37グラムの砂糖がはいっています。
口の中にむし歯菌をうえて、さらにコーラやカステラ(砂糖を含む飲み物や食べ物といった意味です)を食べないと、むし歯にはなりにくいのです。実際、第二次世界大戦中・後の一時期、砂糖がほとんど食べられなかった日本ではむし歯が激減しました。
口の中には酸を作る菌がいっぱいいる(種類)のにどうしてミュータンス菌がむし歯菌なのでしょうか?
どうして砂糖(スクロース)がないとむし歯ができにくいのでしょうか?
ミュータンス菌は砂糖(スクロース)を材料に酸を作るだけではないのです。ミュータンス菌は砂糖(スクロース)をフルクトース(果糖)とグルコース(ブドウ糖)に分けてフルクトース(果糖)はエネルギー源にします。さらにグルコース(ブドウ糖)をどんどんつなげて不溶性グルカンという水に溶けないノリ(なんにでも強烈にくっつきます。)を作るのです。
このノリ(不溶性グルカン)は水に溶けないので、中に菌の作った酸が蓄積されて歯の表面を溶かします。
ミュータンス菌は他の菌に比べてこのノリを作る能力がきわだって高いのでむし歯を作る力も強い。さらに、このノリの材料に利用できる糖は、ほぼ砂糖(スクロース)に限られているのです。
だから砂糖(スクロース)もむし歯を誘発する力が強いのです。
歯にくっついた白いネバネバは、このノリ(不溶性グルカン)からできています。
小児歯科の先生は、「甘いものを食べるとムシバキンがネバネバのうんちで歯にくっついて、すっぱいおっしこで歯を溶かすねん。」と子どもたちに言ってました。
以上は「虫歯はどうしてできるか (岩波新書 黄版 183) (新書) 浜田 茂幸 (著) 」を参考にしました。
「むし歯予防」のお話は次回にします。
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